淡路島・洲本八狸物語

洲本市街地活性化センター
八狸委員会

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 土手松の川太郎


洲本の城下町はな、千草川(ちくさがわ)と塩屋川(しおやがわ)に囲まれて、その土手にはみごとな松並木があったんよ。 城下町のこと「松の内(まつのうち)」なんて呼ばれてたんは そのためじゃ。

土手松の中には、大きなうろのある年とっ た松の木も何本かあってな。狸のすみかにちようどよかった。
そこに住んどったのが、これから話をする川太郎じゃ。

父ちゃんが川太郎で、母ちゃんも川太郎。じいちゃんもばあちゃんも川太郎、 おまけに子どもも川太郎。とにかく土手松に住む狸は みんな川太郎って呼ばれてたらしい。

子狸は三びき。おっきい兄とちっこい兄は、 何でも自分でできるし、上手に化けることも できるので、父ちゃんも母ちゃんも、安心し とったんや。
一番下のちびだぬきは、ちょっと心配やった。

「父ちゃん、川で遊んでくるよ。」
「遊びに夢中になって、しっぽ出すなよ。」
「わかってる。松葉をちょっと頭にのせて、どろどろ、どろーんぱ。」
「あれーぇ、半分たぬきのまんまじゃ。」
「もう一回、どろどろ、どろーんぱ。」

ぽーんと、飛び上がって降りると今度はじょうずに男の子に化けられた。
男の子になったちぴ川太郎、千草川にやっ てきた。川にいたのは、佐兵衛じいさん。

「じいちゃん、なにしとんの。」
「水くみにきたんや。だいこんの種まいたんでな。山のこやし集めて流れてくるこの川の水かけたら、うまいだいこんできるんじゃ。」
「じいちゃん、ぽくにも、水運ばしてえな。」
「ぼうは、かしこい子じゃの。まるで川太郎みたいじゃ。」
「えっ…。」
「ぼうは、土手松の川太郎のことを聞いたことないんかい。このあたりに住んでる狸でな。この川を守ってくれてるかしこい狸なんじゃ。」
「ふーん。」
「だいこんが大きゅうなってぬいたら、またこの川で洗うんじゃ。川太郎がいつもそうじしてくれるよって、きれいな水が流れよる。ほら、魚も元気に泳いどるじゃろ。」
「ふーん、川太郎ってかしこい狸か。じいちゃん、ぼく小さいおけなら持てるから。」
「そうかい、それじや、手伝ってもらおうかのう。」
「うん、ぼくがんばるよ」

ちび川太郎は、うれしそうに言うと、

「よいしよ、よいしよ。」
と、たぬき力をうんと出して、水運びを手伝った。いつの間にかしっぽがぽろリと出いるのも知らないでな。
畑につくと、文(ふみ)ばあちゃんがじいちゃんが運んだ水をしゃくでかけとった。
ええ 芽 だしとくれ
大きな だいこん なっとくれ
う−まい だいこん なっとくれ
「ばあちゃん、ぼくにも水かけさしてや。」
ええ 芽 だしとくれ
大きな だいこん なっとくれ
うーまい だいこん なっとくれ

佐兵衛じいちゃんと文ばあちゃん、畑のあぜに腰かけて、にこにこ笑って見てたんじゃ。

「ぼう、手伝ってくれてありがとよ。」

なんだかうれしいちび川太郎はな、
すったった、すったったっと、遠回り。
ええ 芽 だしとくれ
大きな だいこん なっとくれ
うーまい だいこん なっとくれ
しっぽで音頭とりながら、歌まで歌って帰ったんやと。



「おーい、みんな、集まってくれ」

ある日、じいちゃん川太郎がみんなを呼んだんじゃ、もちろんちび川太郎もな。

「今夜のお月さん、大きなかささしとる。
南の空の雲の色がおかしいんじゃ。
明日は、大雨が降る。今夜のうちに『舞い込み』あたりの土手に石をしっかりつんどかんと、川の水があふれるぞ。」

川太郎じいちゃん、足が弱くなって、歩けんようにはなっとるが、天気はようわかるん じゃ。今まで一回もまちがえたことがない。

「干草川の土手が切れると、畑も田んぼもだめになる。阿弥陀堂も流されるかもしれん。反対側の土手が切れると城下町は水びたしや。」
「じいちゃん、佐兵衛さんとこのだいこんも、流されるのか。」
「そうじや、おまえもがんばってや。明日の朝まで、みんな力合わせて、たのんだよ。」

父ちゃん川太郎はしっぽを、ぶるーんといきおいよく回した。 おっきい兄もちっこい兄も母ちゃんも続いてしっぽをぷるーんと大きく回した。
「ふーん、しっぽを回せばたぬき力が出てくるんやな。ほならぼくも。」
ちび川太郎も、小さいしっぽをぶるんと回したんや。
ばあちゃんは弁当を作ってくれた。

どっこいしょ よいしょ
たっ たっ たっ たっ

よいしょ どっこいしょ
とっ とっ とっ とっ

かーん かーん
とーん とーん
よいしょ どっこいしょ

お弁当、食べて朝まで川太郎はがんばった。

川太郎たちが、土手松のうろでぐっすり眠っていたころにゃ

ざぁー ざぁー ざぁー って
大雨が、山にも町にも川にも降ってたんじゃ。
千草川も塩屋川も、どぉー どぉー と水 が流れたんやけどな、川太郎のおかげで、土手が切れることもなく、水があふれることもなかったんじゃ。

おかけで畑の作りもんも助かって、お米も豊作じゃった。
阿弥陀堂の秋まつりはなぁ、豊作を祝ったん じゃ。この秋まつりのことをな、その年から町の人たちは、川太郎のまつりとも言うようになったんじや。

踊って歌って、たいそうにぎやかなまつり だったそうな。
川太郎もいっしょに踊ったんやて。

物語作者:木戸内福美(キドウチヨシミ)