淡路島・洲本八狸物語

洲本市街地活性化センター
八狸委員会

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すもと八狸(やだぬき)ものがたり


むかしむかしのことじゃ。

三熊山(みくまやま)にお城があって、お殿さまがいらっ しゃったころの話でな。 洲本(すもと)の町には、お殿さまにおつかえするお侍さんの屋敷もあり、もちろん、いろんなお店もならんどった。海にも近いので漁師さんも、町はずれにはお百姓さんも、それにそれに、これから話をする狸も住んどったんじゃ。ようけようけ住んどったんやけど、なかでも、有名な狸が八ぴきおってな、「すもと八狸ものがたり」としてずうっと語りつがれてきたんよ。

淡路島(あわじしま)の狸の話はな、一ぴきずつ人間と同じように名前がついとんのよ。昔はな、人間と狸が助けおうて仲よう暮してきたんやろな。



お城山(しろやま)の柴右衛門(しばえもん)



一番有名なのは、柴右衛門やろな。

淡路島だけやのうて、日本国中、名前が知れわたっとったかもしれんな。

三熊山のことをお城山ともいうとったけど、そのお城山の中ほどの岩かげが、柴右衛門のすみかだった。女房のお増と子どもたちといっしょに喜らしとった。

この柴右衛門、三度のごはんより芝居が好きでな。 芝居小屋がかかったと聞くと、どこまででも芝居見物に出かけよった。

「お前さん、今日はうれしそやな。どっかで芝居やってんのか。」
「そうや、市村(いちむら)で人形芝居の小屋かかったんや。」
「そりゃ、よかったな。十日(とおか)ぶりやな。お前さんは、芝居がないとあかんのやから。」
「今日は、米屋の勘助じいさんになって芝居見物や。」



お増の作ってくれた弁当を腰にくくりつけ、 勘助じいさんに化けた柴右衛門は、すたこらさと城山をかけおりていきよった。お増はその後ろ姿をにこにこしながら見送った。

島のどこにも芝居小屋がかからんときはな、城山の仲間を集めて、大じかけの化けかたで、りっぱな芝居小屋を作ったんじゃ。
城山の、ふもとの小路谷口(おろだにぐち)にちょいちょい芝居小屋があらわれると町の人たちの間ではう わさになっとった。

「さぁー、
よってらっしゃい、見てらっしゃい、
千両役者がせいぞろい。」

いせいのよい呼び込みに誘われて、そこを通る町の人たちは、なぜか小屋の中にすいこまれるように入っていったんやと。
弁当まで配られてな、千両役者に化けた柴右衛門が舞台に立つと

「よう、日本一。」
なんて、かけ声までかけて、芝居を楽しんだんやて。

町の人たちが家に帰って、芝居小屋でもらった弁当を食べようとしたらな、なんと、どろだんごが葉っぱにくるんであったんじゃ。
ほんでも町の人たちはな
「また、柴右衛門にやられたわ。」
「そうか、八ぁんもやられたか。」

怒るどころか、だまされたもんどうして、大笑いしたそうな。

柴右衛門の芝居好きは、それだけではおさまらんでな、とうとう、侍に化けて海を渡ったんじゃ。そうそう、有名な浪花(なにわ)の中座まで芝居見物に出かけよった。

(ここが道頓堀(どうとんぼり)というんかいな。なんと人通りが多いこっちゃのう。
きょろきょろしてては、田舎もんと思われるわ。)

柴右衛門は、胸をはって歩いた。

(人がようけ並んどる。あれが中座やな。
やっと着いたがな。
これが、初代片岡仁左衛門(しょだいかたおかにざえもん)いう役者かいな。)

中座の看板を見上げて、

「よう、男っぷりは、わしとどっこいどっこいじゃな。」

口ひげをぴんとはりたいところを、がまん した。
柴右衛門は、こっそりとふところから柴の葉を出して

は〜、は〜、ほっ。

と、息を、ふきかけ、木戸銭(きどせん)にかえたんじゃ。 それから、すまして並んで劇場に入った。

入って驚いた。お客さんはいっぱい。舞台は広いし、役者の衣装は金ぴかでなんたって芝居が面白い。
すっかり、中座の芝居が気に入った柴右衛 門。 ひまさえあれば中座にかよったんじゃ。


「今白も、中座へいくんかいのう。」
「お増、お前もいっしょにいこうや」
「わたしは、子どもと留守番をしとります。」
「そうかい、すまんのぅ。」
「ええよ、お前さんのうれしそうな顔を見れば、それで十分じゃ。」

お増に見送られ、またまた中座へとやってきた柴右衛門。

(出しもんがかわっとるがな。それにしても、仁左衛門はいつ見てもかっこええなぁ。)

柴右衛門は看板を見てうっとり。
ところが、そこを通りかかったのが、米問屋有馬屋の犬、清蔵(せいぞう)。どんなに遠くはなれていてもかぎわける鼻をもつ浪花ではちょっと名の知れた犬だった。

そうとは知らず柴右衛門、看板を見ながら、仁左衛門のかっこうをまねてな、
(お増のやつに見せてやらにゃ。)
と、にっこり、 きどったところへ
うぅ〜、わん、わん。 うぅ〜、うぅ〜。  せいぞうが、柴右衛門のはかまのすそにかみついた。
「ひゃぁ〜、犬じゃ〜。」
柴右衛門のしっぽがぽろり、お腹がぽこり、耳がひょこり、たちまち侍姿は消え、もとの狸になったからたまらない。

「狸が、おったぞう。」
「狸だ〜。つかまえろ。」

中座の前は、通行人もいっしょになって、 てんやわんやの大さわぎ。
木戸銭の中に、ちょいちょい葉っぱがあるので、「ひょっとして」と思った木戸番のおじ さんも追いかけた。
大勢の人たちに追っかけられ、せいぞうにかみつかれ、そのまま柴右衛門は動かなくなってしまった。

ところがじゃ。
その日から片岡仁左衛門の人気がなくなり、ぱったりとお客が入らんようになってな。
ようよう調べてみると、その狸は芝居好きで有名な洲本城山(すもとしろやま)の柴右衛門狸と分った中座の人たち、
「えらいことしてしまった。舞台の奥でおまつりしよう。」

と、さっそく芝居の神様としておまつりしたんじゃ。
それから、しばらくたつと、仁左衛門の人気はまた元通りに出てきてな、中座は大入り満員の日が続いたそうな。


城山では、いっこうに帰ってこない柴右衛門を心配した女房のお増が、毎日のように海が見えるところまで来ては、入船をまっとったんや。
ちょうどその頃、柴右衛門の長男の柴助が、 諸国修行の旅から、帰ってきたんじゃ。

話を聞いた紫助は、
「母さん、わしが、浪花まで行って様子を見てくるからな。」
と言って、浪花にやってきた。
そこで、柴右衛門は犬にかまれて死んだという話を聞いたんじゃ。
そのうわさを確かめたくて、物知りといわれた野瀬の古きつね小げんたを訪ねた。
すると小げんたは、
「犬にかまれた話しはうそじゃ、ありゃな、播州林田のござえもん狸のことじゃ。柴右衛門はな、わしと化けくらべして負けた後、大阪城の侍の弓でいおとされたんよ」
と、言うんじゃ。

小げんたの作り話しとも知らず、柴助はたいそう悲しんだ。
城山で待つ母さんに、どう話せばいいのやら、柴助は重い足をひきずり城山へもどった。
だまったまま何も話さない柴助に、お増が言うたんじゃ。
「柴助、ごくろうさんでした。
父さんは、中座で役者になっとたか。
よかった、よかった。」 って。

柴助は、だまってうなずいた。
「母さん、明日の晩大浜に来てや。父さんが役者になったお祝いをするからな。」
次の日の晩に、お増は大浜にやってきた。浜には町の人たちも集まってきた。
「柴右衛門の長男の柴助が、諸国修行して帰ってきたんや。父さんに負んような大がかりなのを、見せてくれるんやろな。」
「楽しみやのう。」
その時だった。
ぱぱぱ〜ん
まっくらな空に星の花がさいた。
ぱぱ〜ん ぱぱぱぱ〜ん
いくつもの星の花がさいた。
ぱぱら ぱぱら ぱら ぱらぱらぱら
星の花が広がりながら海に散った。
ぱぱ〜ん ぱぱ〜ん
ひとつ、ふたぁつ、みっつ。
くらい空に、つぎつぎと。
大きな大きな星の花がさいた


お増や町の人たちに、柴助は城山の仲間といっしょに、大じかけの化けかたで、みごとな花火を見せたのじゃ。


柴右衛門は天国から、
「柴助、日本一。」
って、声をかけたんじゃ。その声はしっかり と柴助の心に届いたそうじゃ。

それからしばらくして、町の人たちは、柴右衛門が中座で芝居の神様としてまつられていることを聞いてな、城山の中腹にある八王神社の横の岩かげにおまつりしたんじゃ。

二〇〇〇年には、中座にまつられていた柴右衛門狸の社「柴右衛門大明神」が里帰りし、二〇〇一年一月初めに、洲本八幡神社に安置されました。

物語作者:木戸内福美(キドウチヨシミ)